企画展アーカイブ/ ARCHIVE

  • 田所美惠子 展 / Mieko TADOKORO solo show
    「 SHOW WINDOWS / PINHOLE PHOTOS 」

    2016年11月19日 ~ 2016年12月25日
    19 NOVEMBER 2016 - 25 DECEMBER 2016

    住み慣れたパリの街角で撮影した ”ショーウィンドー” シリーズの中から
    ギャラリーがセレクトした16点を展示いたします。

    「 パリのショーウィンドー 」 田所 美惠子 1990年代半ばから室内で野菜や果物を撮り始めた私は、それから間もなくショーウィンドーの写真をシリーズ化しようと決めました。それはある朝のこと、フランスの日刊紙LIBERATIONの「特派員」としてパリの破棄院(高等裁判所)の内部を針穴で撮影するため、シテ島の中を足早に歩いていたときでした。早春の陽光にきらめく店の窓を横目で眺めて、「パリの通りには無数の静物がある!」とひらめいたのです。 しかし、室内で撮る静物とは大いに勝手が異なります。当たり前のことですが、構図を整えるために陳列物を動かすこともできなければ、光の向きや明るさを変えることもできないからです。さらに、カメラと陳列物を隔てるガラスには静物とは何の関連もない向かいの建物が映り込んでしまいます。短いサイクルで入れ替わるオブジェと年月を経た堅固で美しいパリの町並みが対峙するさまを、ファインダーのない原始的なカメラでとらえたもの、それがパリの通りの静物、つまり私のショーウィンドーシリーズとなりました。 このように制御不能で予測不能なやり方をシステマティックに貫いてカメラに取り込まれた映像は、レンズとは異なる光学的性質をもつ針穴によって、陳列物とガラス面に反射した建物をどちらも優劣をつけずに愚直に映し出します。障壁となっていたガラス板の存在はいつのまにかどこかへ消え、実像と虚像の間にあるはずの前後、遠近、内外といった位置関係や被写体の主従関係の境界線が曖昧になります。針穴の位置がすべてを決めてしまう一点透視法の掟のもと、撮影者はオブジェと映り込みの偶然の重なり合いの妙に希望を託すことしかできません。 このシリーズの画像を撮りはじめてからすでに20年が経ち、はかない運命の陳列物はもとより、今となっては店そのものがなくなっていたり、向かい側の建物が変貌を遂げていたりとパリの街も大きく様変わりしています。2001年9月11日を経て一風変わった撮影方法は残念ながら災いとなり、今ではカメラを構えることをますます躊躇せざるを得ない状況になってしまいました。それでも朝日を浴びたショーウィンドーの前を通りかかると無意識のうちに足が止まり、ワクワクしたりドキドキしたりする気持ちを抑えることができません。パリの通りにはまだまだ無数の静物があるのですから。 (2016年11月)

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