企画展アーカイブ/ ARCHIVE

  • 容子 展 / yoko solo show
    「 湿板 & ダゲレオタイプ 」
    「 wetplate collodions & daguerréotypes 」

    2018年5月12日 ~ 2018年6月3日
    12 MAY 2018 - 3 JUNE 2018

    21世紀のIT社会で生きる容子は、19世紀に発明された古典技法、
    ダゲレオタイプや湿板に魅了され、取り憑かれたように作品を制作している。
    「楽しくて仕方がない」という容子の世界を紹介する。
    鏡のような写真による作品展。初めての個展。

      作家の言葉(文:容子) 写真を撮るという行為は、私にとって記録や表現とも違う、人間の集合体の中から自分自身を解きほぐすといういわゆる内観のような作業である。ガラス板や銀板を磨くそのときから深層の旅は始まり、長い時間をかけて被写体と向き合うとき、自己は時空から遊離して向き合っているものはもはや個々の被写体ではなく、内的現実を映し出す鏡のような存在になってゆく。時間の連続から一度寸断された“ 写真 ”は、完成した時点で私からも寸断されるが、その内容は無意味なように見えて人間の無意識下の普遍的な何かの象徴を表しているかもしれないとも思う。   *ダゲレオタイプ:1837年、ダゲール(フランス)により発明。金属板、一般的には銀の薄い層で覆われた銅板の上に写された写真。板は鏡のような外観で角度によってネガやポジのように見える。 *湿板:1850年、フレデリック・スコット・アーチャー(イギリス)がコロジオンを使いガラス板にネガをつくる「コロジオン湿板法」を考案。1851年のロンドン万国博覧会で紹介。露光時間が短く感光度が高いため1880年代初めまで多くの写真家が利用した。1854年コロジオン湿板法をもとにアンブロタイプ(露出不足を科学的に処理し、ネガの裏に黒い背景を置くことでポジとして見ることができる方法)が発明された。DM葉書 は、アンブロタイプによる作品。

  • M.G.RAIN スプリングセッション 2018
    M.G.RAIN SPRING SESSION 2018

    2018年3月24日 ~ 2018年4月22日
    24 MARCH 2018 - 22 APRIL 2018


    森本洋充を中心に新たな感性の国内外アーティスト6名によるセッション展。
    今回、Jeffery M Graves とLloyd A Greene は 東京デビュー、
    藤間謙二は、ライフワークのゼラチンシルバープリントを初めて発表する。
    これからが楽しみなアーティスト達の
    さまざまな写真の古典技法による作品セッション。

    Jeffery M Graves(プラチナ/パラディウム) Lloyd A Greene(プラチナ/パラディウム) 森本洋充(プラチナ/パラディウム) 藤間謙二(ゼラチンシルバー) 坂田峰夫(フォトグラム) 容子(ダゲレオタイプ) Jeffery M Graves (Platinum/Palladium) Lloyd A Greene (Platinum/Palladium) Hiromitsu Morimoto (Platinum/Palladium) Kenji Toma (Gelatin Silver) Mineo Sakata (Photogram) Yoko (Daguerréotype)

    作家の言葉(抜粋)/ Artist Statement (extract)

    森本洋充 / Hiromitsu Morimoto ニューヨーク在住 / USA 「イメージに合わせて紙を選びます。紙との出会いが先で、その紙にあった被写体を撮ることもあります。」選んだ紙に、人物や静物といった身近なモチーフを独創的な発想と方法でプリントし、多様な写真表現を追求している。

    Jeffery M Graves コロラド州在住 / USA The images from “A Survey of the Eastern Plains” are a culmination of wanderings in and around the Pawnee Grasslands in Northeast Colorado. This area was particularly hit hard by drought which made life difficult for smaller less successful land workers to survive. Working photographically in this landscape gives me an opportunity to step into the history of this land and its relationship to the present. I have an interest in how we as humans use land. How the land reacts. Symbols and relics of forward progress are all around us. To record this slice of time I chose platinum and palladium not only for its beautiful warm tonal scale but also for its archival properties, hoping that these images will outlive the subject matter and serve as a reference for generations to come. [“東部平原の記録” シリーズの作品は、コロラド北西部のポーニー国立草原で撮影した。ここは、厳しい干ばつで生きることが困難な土地だった。作品制作は、この土地の歴史や、それが現在にもたらしたことを考えるきっかけになった。人間はどのように土地と関わり、土地はどのように反応するのか。先々の進歩を思わせる象徴や遺産はすべて身近なところにある。美しい階調効果だけでなく、これらの歴史遺産、写真に写し出されたテーマが未来の世代に語りかけるものとなることを願いつつ、時の断面を記録するため、プラチナ/パラディウムで制作した。]

    Lloyd A Greene オハイオ州在住 / USA PORTRAITS ON THE GANGES PORTFOLIO: I am drawn to India and the Ganges River because of the people and culture. In India, many of the ways of life have been done the same way for thousands of years. The river is named after the Hindu God “Ganga”. Indian mysticism often refers to the river and god as being the same--she nurtures the people and the land. In these images, I am attempting to show the serenity of the river activities. The [platinum/palladium] prints are designed to be permanent, soft and warm reflecting the Ganga Nurturing. [ガンジスの描写より:ガンジスの人と文化に魅了されインドへ。多様な生き方が数千年にわたり綿々と営まれてきた国。ガンジス川は、ヒンドゥー教の神“ガンガ”から名付けられた。インドの信仰は、人や大地を潤す川を讃えることが少なくない。このシリーズでは、川でおこなわれる営みの静穏を捉えようと試みた。プラチナ/パラディウムの恒久性と、柔らかく温かい色調でガンジスを表現した。]

    藤間謙二 / Kenji Toma ニューヨーク在住 / USA 1997年、1人のダンサー Jessicaを撮り始めた。被写体の持つ本質を写真に記録しようと試み、骨、筋肉、皮膚からなる人間の肉体の造形美に焦点を絞り、それらの要素が造り出す研ぎすまされたシェープと動きを静物に向かうようなアプローチで撮った。肉体は時とともに変化する。18年が経ち、再び彼女の肢体と向き合うことになった。彼女の肉体を通し時間の流れを写し出す作業。私自身、時とともに被写体との向き合い方が変わってきている。Jessicaを撮り続けることは、未知の世界だ。これは肉体に残された時間の足跡を記録する継続的プロジェクトである。今回、ライフワークとして制作を続けてきたゼラチンシルバー作品を初めて発表する。Jessicaシリーズ初期の作品を展示。

    坂田峰夫 / Mineo Sakata 東京在住 / Japan 「FLOWERS」シリーズの写真は、写真用印画紙に直接焼き付けるフォトグラムを応用したオリジナルのメソッドによるものである。写真技法を使った絵画という認識である。作品は、ポジ像とネガ像が一対を成し、彼岸と此岸の対と同じように、みえるもの、あるいはみえないことの世界を表している。オリジナルのメソッドによって、この曖昧な境界を行き来し印画紙に結実する。私にとって花は献花であり、花を手向けるという行為は万物への敬意と未来と過去をつなぐ象徴である。

    容子 / Yoko 東京在住 / Japan 魂はどこから来て、どこへ向かうのか。次にはどんなステージが待っているのか。私の中で「死」は恐るべき存在ではなく隣の部屋へ向かう扉のようなイメージだ。19世紀のダゲレオタイプを初めて見た時、その扉を発見したような衝撃だった。これは写真なのだろうか。銀板に写し出される画像が角度を変えると現れたり消えたりする。魂が扉の向こう側へ引き込まれていくような錯覚を起こす。私にとって、長い露光時間をかけての制作プロセスは、次の世界への誘い、あるいはセレモニーである。

  • 藤田修 展 / Osamu Fujita solo show
    フォトポリマー・グラヴュール
    「 PHOTOPOLYMER GRAVURE 」

    2018年2月3日 ~ 2018年3月4日
    3 FEBRUARY 2018 - 4 MARCH 2018

    アーティスト トーク: 2018年 3月 4日 PM 4 時 ~ 5 時
    Artist Talk : 4 March 2018 4:00 PM ~ 5:00 PM

    フォトポリマー・グラヴュールで制作した新作展

    「見ることと見えること」 文:藤田修 見ることと見えること 見ようとしなければ見えないもの 日常の中に隠れているその瞬間は 見ようとする意思と光と影の幸運な出会い 意思がなければ出会うことが無かったその瞬間を カメラに収め、いくつかの工程を経て 版に定着し、紙の上にイメージの物質化を試みる 感光性樹脂板を用いた写真と版画の狭間のようなもの それを私はフォトポリマー・グラヴュールと呼んでいる

  • 雨宮一夫 展 / Kazuo Amemiya solo show
    「 PLATINUM / PALLADIUM, WAX FINISH 」

    2017年11月11日 ~ 2017年12月10日
    11 NOVEMBER 2017 - 10 DECEMBER 2017

    アーティスト トーク:12月10日 PM 4 時 ~
    Artist Talk : 10 December 4:00 PM ~

    カタコンベの写真を中心に独自の方法で制作した新作展
    Exhibition of the recent works in his own unique method
    composed of “Catacombe” and others

    ローマのアッピア街道沿いにあるカタコンベ(地下墓地)を訪れたのは、 1983年だった。薄暗い地下空間に、おびただしい数の亡骸があった。 夢中で撮影したが、カタコンベの写真は、ネガのまま、お蔵入りしていた。 あれから34年の月日が流れ、やっと表現できるプリントに辿りついた。 カタコンベとの出会いは、その後の写真とのかかわりに大きな影響を与えたと思う。 古典技法を始めたのも、このプリントを求めてのことだったのかもしれない。 雨宮一夫 It was1983, I visited “Catacombe” (cemetery underground),lies along the Appian Way in Rome. In this subterranean place, there were innumerable mummified remains of persons’ bodies. I was caught up in taking photographs of them. However, I couldn’t print them for a long time. It took me 34 years to finish these photos from the negatives. I wonder that this chance encounter with “Catacombe” had a major influence on my later works,which is using alternative method. Kazuo Amemiya

  • 森本洋充 展 / Hiromitsu MORIMOTO solo show
    「 カリタイプ + プラチナ/パラディウム 」
    「 KALLITYPE + PLATINUM / PALLADIUM 」

    2017年9月23日 ~ 2017年10月22日
    23 SEPTEMBER 2017 - 22 OCTOBER 2017

    開廊日 PM 3時頃から作家在廊予定です。
    The artist will be present from around 3:00 PM.

      森本洋充は、ニューヨークを拠点に、ユニークな発想で表現の可能性を探求し続けている。 彼の作品は、1970年代には、すでに NEXT ARTS のひとつとして紹介され、現在も写真の領域にとどまらず、国内外で高く評価されている。 今回は、同じ画像の、定着していないカリタイプ・プリントと、完全処理したプラチナ/パラディウム・プリントを並べて展示する実験的個展である。 未定着のカリタイプの作品は、光や空気に触れることで、時の経過とともに黒化していくため、すべて会期直前に制作され、本展で初公開となる。 古典技法の特性を用いて、「イメージの変化を楽しむコンセプト」の作品展である。   個展にあわせて、森本洋充写真集(500部 限定版)を刊行・発売いたします。 Monochrome Gallery RAIN のみでの販売となります。

  • 久保卓治 展 / Takuji KUBO solo show
    「 フォトポリマー・グラヴュール + エングレーヴィング 」
    「 PHOTOPOLYMER GRAVURE + ENGRAVING 」

    2017年7月1日 ~ 2017年7月23日
    1 JULY 2017 - 23 JULY 2017

    エングレーヴィング実演 + トーク:7月23日 PM 3 時 ~
    Artist's Engraving Performance + Talk : 23 July 3:00 PM ~


    旅先や日常生活の中で撮影した風景を
    フォトポリマー・グラヴュールとエングレーヴィングで表現した作品展。
    ギャラリーがセレクトした16点を展示いたします。

    エングレーヴィングの第一人者である銅版画家・久保卓治は、日本に初めて フォトポリマー・グラヴュール(= ソーラー・プレート)を導入した人でもある。 独自のメソッドを用いて、繊細で、深みのある独特な質感の表現に挑み続けている。 今回は、ロンドン、上海、バンコク、横浜 … 国内外で撮影した写真をもとに制作した フォトポリマー・グラヴュール作品とエングレーヴィング作品のコラボ展である。

  • 安田雅和 展 / Masakazu YASUDA solo show
    「 shima / carbon print 」

    2017年5月13日 ~ 2017年6月11日
    13 MAY 2017 - 11 JUNE 2017

    南の島で撮影し、カーボンプリントで制作した新作。
    ギャラリーがセレクトした16点を展示いたします。

    作家在廊予定:5/14, 6/10, 6/11
    Artist will be present : 14 May, 10 & 11 June

    shima / carbon print 「shima」は、八重山諸島で撮影した。 初めてマングローブの林に足を踏み入れたとき、 いつかどこかで出会ったような不思議な感覚にとらわれた。 木々のざわめきが、楽器を奏でているかのように、一音一音が重なり、調和している。 さながら森のシンフォニーだ。 この原始の息づかいに触れたくて、幾度も shima を訪れてしまう。 安田雅和(西表島にて)   カーボンプリント: 19世紀に発明された写真技法。作品表面がベルベット調になるため「カーボンベルベット」とも呼ばれています。カーボン粉末をゼラチン膜に付着させる方法で、ゼラチン膜の硬さによって変化するカーボンの付着具合で画像イメージを表現します。感度が低いので、太陽の下で10分〜30分かけて完成させます。

  • M.G.RAIN スプリングセッション 2017
    M.G.RAIN SPRING SESSION 2017

    2017年3月25日 ~ 2017年4月23日
    25 MARCH 2017 - 23 APRIL 2017

    国内外から5名のアーティストが参加し、さまざまな写真の古典技法による
    作品セッション展を開催いたします。

    藤田修(フォトエッチング) コウムラシュウ(カリタイプ & リスプリント)    日下部一司(ゼラチンシルバー & ガム印画) 白石ちえこ(フォトドローイング/ぞうきんがけ) 安田雅和(カーボンプリント)

    Osamu FUJITA (Photo Etching) Shu KOUMURA (Kallitype & Lith Print)  Kazushi KUSAKABE (Gelatin Silver & Gum Print) Chieko SHIRAISHI (Photo Drawing = Zôkingaké) Masakazu YASUDA (Carbon Print)

      作家の言葉(抜粋)  藤田修: 今回展示するのは、1990年代の作品です。90年代は、フォトエッチングという腐食銅版画を中心に制作していました。この技法は、作家によって制作方法は様々です。イメージをフィルムに変換したものを銅板に露光し、塩化第二鉄液で腐食させ、その後アクアチントや、エッチング等の技法を加え、イメージを構築させます。 コウムラシュウ: これまでゼラチンシルバーで作品を制作してきましたが、カリタイプでの作品に取り組み始めました。プラチナやパラジウムで調色することで、プラチナプリントのような恒久性を得ることができ、さらに色味を自分で調合できる楽しみがあります。カリタイプをはじめ幾つかの古典技法で表現を追求し、試行錯誤を重ねています。 日下部一司: 「どこに、どのようにイメージが定着されているか。」 支持体への興味は、自分と写真の関係の重要な要素です。かつて制作していた版画表現の経験から、紙、インク、額装のことなどを写真作品にあてはめ、プリントイメージや黒のバリエーション等、表現を模索するなかで古典印画法を用いるようになりました。「写真の物質感」は、私にとって外せない要素です。最近、作品の物理的な「重さ」も大切ではないかと考えています。 白石ちえこ: 現像で完全に仕上げた印画紙を油絵の具で真っ黒に塗り込めてしまうのには抵抗と快感があります。絵の具を拭い、闇の底に沈んだ風景を掘り出し、削りだしていく作業。暗がりから次第に見えてくる光景との出会い。明るい場所から暗闇に入ったとき、目が慣れるにしたがって徐々に景色が見えてくるように、薄暗い中に、息づく、静かな風景が見えてきます。 安田雅和: 写真が発明された頃のプリントを見ると、平面でありながら、物質や存在など、手作業ゆえの表現とぬくもりを感じます。そのような写真に魅了され、過去の技術に“新しさ”を発見し制作しています。1878年に発明された「カーボン写真」は、作品表面がベルベット調になるため、「カーボンベルベット」とも呼ばれます。カーボン粉末をゼラチン膜に付着させる方法。ゼラチン膜の硬さによって変化するカーボンの付着具合で画像イメージを表現します。感度が低いので、太陽の下で10分〜30分かけて完成させます。

  • 金井杜道 展 / Morio KANAI solo show
    「 WOOD NOTE / GELATIN SILVER + PLATINUM 」

    2017年2月4日 ~ 2017年3月5日
    4 FEBRUARY 2017 - 5 MARCH 2017

    ヨーロッパの森で撮った作品と日本各地で撮影した仏像写真の中から、
    ギャラリーがセレクトした14点を展示いたします。


    WOOD NOTE 「木を見ていると音が聴こえてくる。森を見ると撮りたくなる。」 (金井杜道)   森の中にこだまする自然の音を Wood Note と云う。 子供の頃に駆け回った森林。旅先で出会った木立。森を離れて仏像になった木。 傍には、いつも「木」があった。 金井杜道の父親は、日本で第1号の国立公園管理官(レンジャー)である。 父の転勤に伴い、日本各地の森を身近に感じながら育った。 20代で、奈良飛鳥園の小川光三氏に師事し、仏像や古美術の撮影技術を習得した。 その後、京都国立博物館員として、長年、仏像等の撮影に携わってきた。 今回は、仏像写真のスペシャリストである金井杜道が Wood Note をとらえた作品展で ある。  

  • 田所美惠子 展 / Mieko TADOKORO solo show
    「 SHOW WINDOWS / PINHOLE PHOTOS 」

    2016年11月19日 ~ 2016年12月25日
    19 NOVEMBER 2016 - 25 DECEMBER 2016

    住み慣れたパリの街角で撮影した ”ショーウィンドー” シリーズの中から
    ギャラリーがセレクトした16点を展示いたします。

    「 パリのショーウィンドー 」 田所 美惠子 1990年代半ばから室内で野菜や果物を撮り始めた私は、それから間もなくショーウィンドーの写真をシリーズ化しようと決めました。それはある朝のこと、フランスの日刊紙LIBERATIONの「特派員」としてパリの破棄院(高等裁判所)の内部を針穴で撮影するため、シテ島の中を足早に歩いていたときでした。早春の陽光にきらめく店の窓を横目で眺めて、「パリの通りには無数の静物がある!」とひらめいたのです。 しかし、室内で撮る静物とは大いに勝手が異なります。当たり前のことですが、構図を整えるために陳列物を動かすこともできなければ、光の向きや明るさを変えることもできないからです。さらに、カメラと陳列物を隔てるガラスには静物とは何の関連もない向かいの建物が映り込んでしまいます。短いサイクルで入れ替わるオブジェと年月を経た堅固で美しいパリの町並みが対峙するさまを、ファインダーのない原始的なカメラでとらえたもの、それがパリの通りの静物、つまり私のショーウィンドーシリーズとなりました。 このように制御不能で予測不能なやり方をシステマティックに貫いてカメラに取り込まれた映像は、レンズとは異なる光学的性質をもつ針穴によって、陳列物とガラス面に反射した建物をどちらも優劣をつけずに愚直に映し出します。障壁となっていたガラス板の存在はいつのまにかどこかへ消え、実像と虚像の間にあるはずの前後、遠近、内外といった位置関係や被写体の主従関係の境界線が曖昧になります。針穴の位置がすべてを決めてしまう一点透視法の掟のもと、撮影者はオブジェと映り込みの偶然の重なり合いの妙に希望を託すことしかできません。 このシリーズの画像を撮りはじめてからすでに20年が経ち、はかない運命の陳列物はもとより、今となっては店そのものがなくなっていたり、向かい側の建物が変貌を遂げていたりとパリの街も大きく様変わりしています。2001年9月11日を経て一風変わった撮影方法は残念ながら災いとなり、今ではカメラを構えることをますます躊躇せざるを得ない状況になってしまいました。それでも朝日を浴びたショーウィンドーの前を通りかかると無意識のうちに足が止まり、ワクワクしたりドキドキしたりする気持ちを抑えることができません。パリの通りにはまだまだ無数の静物があるのですから。 (2016年11月)

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